実家じまい、認知症だと売れない?売却方法と備える2つの対策

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佐藤高樹

執筆者:佐藤高樹(稲沢あんしん不動産 代表)
宅地建物取引士・公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)/業界28年・査定実績5,000件超
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「親の家を売りたい」と相談に来られて、よくよく話を聞いてみると、実はご本人が認知症だった。私のところには、年に何度かこういうご相談が届きます。

そんなとき、「不動産は、ご本人が認知症だと売れなくなるんですよ」とお伝えすると、たいてい「えっ、どうしたらいいんですか」と驚かれます。

方法がまったくないわけではありません。ただ、先にお伝えしておくと、認知症が進むとご本人の意思では売れなくなる、という壁があります。だからこそ、元気なうちに動くか、別の形で備えておくか。今日はそのあたりを、稲沢で相続のサポートを長年やってきた立場から整理してみます。

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なぜ認知症だと実家が売れなくなるのか

不動産を売る最後の場面で、必ず「ご本人の意思確認」というステップが入ります。これをやるのが司法書士です。

家を売って所有権を買主に移すには、法務局で「所有権移転登記」という手続きをします。司法書士はこの登記を代理で申請する前に、必ず売主ご本人に会って確認します。「ご本人の意思で、この価格で、このお相手に売る。間違いないですか」と。

ここで司法書士が「意思確認ができない」と判断すると、登記を進めてもらえません。契約書にハンコを押していても、最後の登記まで進まない。結果として売れない、ということになります。

子どもが代わりにサインするのはダメ

「なら子どもが代わりにサインすればいい」と思われるかもしれません。でも、これは避けてください。

ご本人の意思確認ができない状態で売却を進めると、契約そのものが無効になる場合があります。後から他の親族とのトラブルになったり、買主側から「無効だから返してほしい」と言われたり。こうした火種を抱えることになります。

司法書士も簡単に「大丈夫です」とは言いません。本当に売る意思があるかを確かめるために、慎重に質問を重ねたり、記録を残したりします。ここが「本人意思確認の壁」です。

ご高齢の方の売却は「時間との戦い」になる

ここからは、現場で私が一番気をつけている話をします。ご高齢の親御さんの不動産を売るとき、いつも頭にあるのは「時間」なんです。

認知症は進行していくもので、待っていて良くなることは、まずありません。だから販売を始める前にご本人へ意思確認をして、受け答えがゆっくりでも「売りたい」「この金額なら」「子に任せる」とはっきり答えていただければ、そこで販売スタートになります。

ただ、不動産は売り出してすぐ売れるとは限りません。購入の申し込みが入るまで2〜3ヶ月、そこから契約・引き渡しまでさらに1〜2ヶ月。合わせて3〜5ヶ月かかるのが普通です。

そして契約のときと引き渡しのときに、司法書士が改めて意思確認をします。「この価格で売って大丈夫ですか」と。販売開始のときは問題なくても、数ヶ月のあいだに症状が進んで、契約の場面で「やっぱり大丈夫かな」と心配になることが、実際にあるんです。だからご高齢の親御さんの売却は、無事に引き渡しまでたどり着けるかどうか、最後まで気が抜けません。

すでに認知症が進んでいる場合は成年後見人制度

販売を始める前の時点で、すでに認知症がはっきり進んでいるとわかっている場合。ここで出てくるのが成年後見人制度です。

家庭裁判所に申し立てて、ご本人の代わりに財産を管理する代理人を選んでもらう仕組みです。後見人が決まれば、その人が代わりに不動産を売却できる場合があります。

ただ、現場の感覚として、いくつかハードルがあります。

申し立てから後見人が決まるまで、数ヶ月かかることが多いです。後見人は必ずしも家族が選ばれるとは限らず、裁判所の判断で弁護士や司法書士など専門家が就くこともあります。その場合は報酬が発生し、ご本人が亡くなるまで毎月払い続けることになります。

さらに、住んでいた家を売るには裁判所の許可が必要なケースがあり、後見人がついても自由に売れるわけではありません。「ご本人にとって必要な売却か」という観点で見られるため、相続税対策やご家族の都合だけでは許可が下りにくい、ということも起こります。

つまり、進んでしまってから動くと、売れるかどうかも、いつ・いくらで売れるかも、ご家族の思い通りには進みにくくなります。

元気なうちにできる2つの対策

ここまでを踏まえて、元気なうちにできる備えは、大きく2つです。

対策1:元気なうちに売却してしまう

一番シンプルなのがこれです。ご本人とよく話し合い、ご本人の意思で売る。判断がしっかりしているうちなら、ふつうの売却として進められます。

動き出す目安として、私がよくお伝えしているサインがあります。物忘れが少しずつ増えてきた。同じ話を繰り返すことが増えた。通帳やお金の管理が少し怪しくなってきた。こうした様子が見え始めたら、「1年以内に動くつもりで」と考えておくと、慌てずに済みます。

対策2:家族信託で備える

もう一つが家族信託(民事信託)です。ざっくり言うと、親が元気なうちに「自分の不動産の管理や処分は子に任せる」という契約を、公正証書という形で作っておくもの。これがあれば、親が認知症になっても、子がその権限で売却できる場合があります。成年後見人制度を使わずに済むケースもあります。

ただし、専門家に依頼して作成すると数十万円から百万円ほどの費用がかかりますし、契約書をきちんと作り込まないと後で揉める種にもなります。そして家族信託は、元気なうちでないと作れません。これもまた、時間との戦いなんです。

当社は家族信託の専門家とも連携しているので、売却そのものだけでなく、その手前の「備え」の段階から一緒にご相談いただけます。マンションをお持ちのご家族向けには、家族信託の話をもう少し詳しくまとめた[マンションと家族信託の備え方の記事](https://inazawa.estate/kazoku-shintaku-70dai-mansion-taisaku/)もありますので、合わせてどうぞ。

一番もったいないのは「まだ大丈夫」の先送り

正直なところ、一番もったいないのは「うちはまだ大丈夫」と思って先延ばしにしてしまうことです。

認知症は進行性で、待っていて良くなることは期待しにくい。「まだ大丈夫」と先送りした結果、いざ動こうとしたら本人の意思確認ができなくなっていた、というご家族を、これまで何度か見てきました。

サインが見え始めたら、判断は早めに。それだけで、選べる道がぐっと広がります。実家じまいの全体の流れや手順については、[相続した実家の片づけと売却の進め方をまとめた記事](https://inazawa.estate/jikkajimai-koukai-3sen/)も参考になるかと思います。

よくある質問

Q. 契約書にハンコを押したあとに親の認知症が進んだら、その契約はどうなりますか? A. 引き渡し前に司法書士が改めて意思確認をするため、その時点で確認が取れないと手続きが止まってしまう場合があります。だからこそ、ご高齢の方の売却は早めに進め、契約から引き渡しまでの期間をなるべく短く設計することを心がけています。

Q. 子どもが代理人になれば、親の家をすぐ売れますか? A. 委任状があっても、ご本人の意思確認ができない状態では売却が難しくなる場合があります。すでに認知症が進んでいる場合は成年後見人制度を検討することになりますが、時間も手間もかかります。元気なうちの対策のほうが、選択肢は多くなります。

Q. 家族信託と成年後見人制度、どちらがいいですか? A. ケースによります。ざっくり言うと、家族信託は「元気なうちに将来へ備える」もの、成年後見人制度は「すでに判断が難しくなってから」のもの、という住み分けです。どちらが向くかはご家族の状況次第なので、まずは現状を整理するところからご一緒できます。

Q. まだ親は元気ですが、今から相談してもいいですか? A. むしろ、その段階が一番動きやすいタイミングです。「今すぐ売る」と決めていなくても、現状を整理して選択肢を知っておきたいというところからでも大歓迎です。

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なお、本記事の税金・制度に関する記述は一般的な解説です。個別のケースについては、税理士・司法書士、または家庭裁判所や所轄の窓口にご確認ください。

ここまで読んで「うちの場合はどうなんだろう」と感じた方は、
状況の整理からご相談ください。

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