遺言書が出てきたら|勝手に開けていい?検認から実家売却までの手順

四十九日が終わって、少し気持ちが落ち着いた頃。そろそろ実家の片付けを始めようと、普段はほとんど開けることのない仏壇の奥の引き出しを開けてみた。
出てきたのは、古い手紙のようなもの。
何だろうと手に取ってみると、封筒はしっかりと糊付けされていて、閉じ目のところには赤い印鑑まで押してある。表には「遺言書」と書いてある。
そこで、手が止まってしまった。
今回はそういう方に向けて、遺言書が見つかったときの対応から、検認という手続き、そして実家の売却がいつからできるようになるのかまで、まとめてお話しします。

先に結論を言うと、封がしてあってハンコが押してある遺言書は、開けずにそのまま家庭裁判所に持っていってください。
実家の売却は、家庭裁判所の「検認」という手続きが終わってからになります。
逆に言えば、そこさえ通れば売却の手続きに進めます。
もう開けてしまった方も、正直けっこういらっしゃると思います。
開けてみないと遺言書かどうか分からないケースもありますからね。
大丈夫です。
開けたからといって遺言書が無効になるわけでも、相続人の資格を失うわけでもありません。
ただ、そこから先にやってはいけないことが一つだけあります。
条文の一つひとつは民法・裁判所公式・国税庁の情報をもとに確認したものです。
長くなりますが、遺言書のことで検索してここに来た方が、隅々まで分かるようにまとめました。
▶ この記事の要点は動画でも解説しています(約21分)
民法の条文と裁判所公式の情報をもとに、検認の実務を解説しています。
遺言書は開けていいのかどうか

答えははっきりしています。
封がしてあって、その閉じ目にハンコが押してある。
この状態のものは開けたらダメです。
法律にそのまま書いてあります。民法1004条3項です。
「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない」

「封印」というのは、封筒に封がしてあって、閉じ目のところにハンコがぽんと押してある状態のことです。
のり付けしてあるだけでなく、ハンコまで押してある。
なぜハンコなのかというと、あとから誰かが開けたかどうかが分かるようにするためです。
だから法律も、そこまでしてあるものは家庭裁判所で、相続人が立ち会ったところで開けてください、と決めているわけです。
ここでよく聞かれるのが、「封がしてなかったらどうなるんですか」という質問です。これは開けてはいけないというルールにはかかりません。条文が「封印のある遺言書は」と書いているので、封もハンコもないものはこの3項の対象外です。ただ、ここが落とし穴で、封がしてなくても検認は必要です。封のあるなしと、検認がいるかいらないかは別の話。検認がいらないケースはちゃんとありますが、それは封の話ではありません(後述)。
正直、開けてみないと遺言書かどうか分からないケースもあると思います。
封筒に何も書いてなくて、ただ封がしてハンコが押してある。
仏壇の引き出しから出てきた。
中身は分からない。
こういうときは開けないでください。
開けてしまってからだと戻せません。
もう開けてしまった。どうなるのか
結論から言うと、そんなに怖がらなくても大丈夫です。
まず一つ、開けたからといって、その遺言書が無効になることはありません。
勝手に開けた場合のことを書いた条文が民法1005条ですが、ここには「5万円以下の過料に処する」としか書いてありません。
「遺言書は無効になる」とは、どこにも書いていないのです。
もう一つ、相続人の資格を失うこともありません。
相続人の資格を失うことを法律の言葉で「相続欠格」と言いますが、遺言書についてはこう書いてあります。
民法891条5号です。
なお、相続そのものを望まない場合は、期限内に相続放棄の手続きを取るという選択肢もあります。自分でできる相続放棄の手続き|申述書の書き方・必要書類・費用・提出先で詳しく解説しています。
「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」
偽造、変造、破棄、隠匿。
開封は入っていません。
だから、うっかり開けてしまっただけならここには当たりません。
ただ過料はあります。
5万円以下。
勝手に開けた人、それから検認をしないまま遺言の中身を実行してしまった人が対象です。
過料は罰金ではありません。
罰金は刑罰なので前科がつきますが、過料は刑罰ではないので前科はつきません。
行政上のペナルティと思ってください。
ここから本題です。
この、偽造・変造・破棄・隠匿。
つまり中身が自分に不利だったから、なかったことにする、書き換える、捨てる、ほかの兄弟に黙っておく——これをやったら一発で相続人の資格を失います。
1円ももらえません。
過料5万円どころの話ではなくなります。
開けてしまったのは、正直、事故のようなものです。
中身が分からないのですから。
でも、開けたあとにどうするかは選べます。
開けてしまった方は、そのまま何も手を加えずに家庭裁判所に持っていってください。
「開けてしまいました」と正直に言えばそれで進みます。
検認とは、そもそも何をする手続きなのか

ここ、ほとんどの方が誤解されているところです。裁判所のホームページには、こう書いてあります。

「検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です」
ざっくり言うと、「この日の時点で、この遺言書はこういう状態でしたよ」と、裁判所に記録してもらう手続きです。
何枚あって、どんな紙で、どこが書き直してあって、日付はいつで、名前はこう書いてあった。
それを記録します。
ここからが大事です。同じ裁判所のホームページに、続けてこう書いてあります。
「遺言の有効・無効を判断する手続ではありません」
つまり、検認が終わったからといって、「この遺言書は有効だ」とお墨付きをもらったことにはなりません。
「裁判所を通したんだから、この遺言で決まりでしょう」と思われがちですが、違います。
裁判所は状態を記録しただけで、中身が正しいかどうかは一切見ていないのです。
では、有効かどうかは誰が決めるのか。
手書きの遺言書、これを「自筆証書遺言」と言いますが、形のルールがあります。
民法968条です。
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」
全文、日付、名前を自分の手で書き、ハンコを押す。
この4つです。
パソコンで打ったものはダメで、日付が抜けていてもダメです。
財産の一覧表(目録)だけは2019年からパソコンで作ってもよくなりましたが、1枚1枚に署名してハンコを押す必要があります。
この形が整っていない遺言書が出てきた場合、有効かどうかで揉めることになります。
最終的には裁判所で争って決める、という話になり、名義も変えられないため実家は売れないまま止まります。
2026年6月の法改正で何が変わるか
2026年6月17日、遺言のルールを変える「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。
パソコンで作った遺言を法務局に預ける新しい方式(保管証書遺言)ができます。
ここは施行時期を分けて理解しておく必要があります。
| 改正内容 | 施行時期 |
|---|---|
| 押印廃止(自筆証書遺言・秘密証書遺言なども対象) | 公布から1年以内 |
| 保管証書遺言(パソコンで作成・法務局保管)の新設 | 公布から3年以内 |
押印廃止のほうが、パソコン遺言よりも早く施行されます。
ただし押印廃止後も「全文・日付・氏名の自書」は維持されます。
いずれも施行日はまだ確定していません。
今から遺言を書かれるなら、これまでどおり手書きで、ハンコも押しておいてください。
手書きの遺言がなくなるわけではないので、そこはご安心ください。
検認が要らない場合が、2つだけあります

一つ目は公正証書遺言です。
公証役場という役所のようなところで、公証人という方に作ってもらう遺言です。
これは検認がいりません。
民法1004条2項にはっきり書いてあります。
「前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない」
なぜいらないかというと、原本が公証役場に保管されているからです。
書き換えようがない。
だったら偽造を防ぐための検認も、やる意味がないわけです。
二つ目は、法務局に預けてある自筆証書遺言です。
手書きの遺言を法務局が預かってくれる、比較的新しい制度です。
1通3,900円で預かってもらえます。
これも検認はいりません。
ただし注意点があり、相続人が使うのは遺言書そのものではなく「遺言書情報証明書」という書類です。
法務局に請求して出してもらいます(1通1,400円)。
この2つのどちらかなら、検認を待たなくていいのです。
裁判所に申し立てて相続人全員に通知が行って期日が決まって……という手続きが丸ごといりません。
だから名義の変更にすぐ入れます。
うちの親の遺言書はどっちなのか。見分け方はこうです。
- 表紙に「遺言公正証書」と書いてある、きちんとした冊子になっている → 公正証書遺言。検認いりません
- 法務局の保管証がある、または法務局から通知が届いた → 法務局保管。検認いりません
- 仏壇や金庫から出てきた手書きの紙 → 検認が要ります
封がしてあってハンコが押してあるものは、ほぼ間違いなく3つ目です。
だから開けずに家庭裁判所へ、ということになります。
検認の進め方。そして、実家が売れるまでの順番

まず安心してほしいのですが、検認はそんなに珍しい手続きではありません。
裁判所の統計を見ると、23,523件(令和7年分)。全国の件数です。
年間2万3千件、毎年これだけの方がやっている手続きです。
どこに出すか
「遺言者の最後の住所地」の家庭裁判所です。
亡くなった方が住んでいた場所で決まります。
あなたがどこに住んでいるかは関係ありません。
例えば息子さんが東京に住んでいて、亡くなったお父さんが稲沢に住んでいたなら、稲沢のほうで決まります。
稲沢市・一宮市・江南市・岩倉市の方は、名古屋家庭裁判所一宮支部(一宮市公園通4-17・尾張一宮駅から徒歩15分)になります。
一方、あま市・清須市・北名古屋市・津島市の方は、名古屋家庭裁判所の本庁になります。
同じ近隣でも申立先が分かれるので、ここは間違えやすいところです。
いくらかかるか
まず収入印紙が800円。
遺言書1通につき800円です。
それと連絡用の郵便切手。
名古屋家庭裁判所の場合は110円切手を「関係する人の数プラス3」枚となっています。
これで終わりではありません。
検認が終わったあと、「検認済証明書」を出してもらう必要があります。
これが遺言書1通につき150円。
この証明書がついていないと、遺言書を使って手続き(名義変更を含む)ができません。
800円で終わりだと思っていると足りないので、150円も忘れないでください。
何を出すか
申立書と戸籍です。
亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの全部の戸籍、それから相続人全員の戸籍。
「生まれてから」というのが厄介で、結婚や引っ越し、法律の改正で戸籍は作り直されるので、1通では足りません。
令和6年3月から「広域交付」という制度が始まり、本籍地がどこにあっても最寄りの市役所窓口でまとめて請求できるようになりました。
稲沢の方なら、市役所の市民課や支所・市民センターでも受け付けています。
ただし取れるのはご本人・配偶者・父母や祖父母・お子さんやお孫さんまでで、ご兄弟の戸籍は取れません。
ご本人が顔写真付きの身分証を持って窓口に行く必要があり、郵送や代理の方ではできない点も注意してください。
古い戸籍だと対象外になるものもあります。
当日の流れ
申立てをすると、裁判所が検認の期日を決め、相続人全員に通知が行きます。
「兄弟が来なかったらどうなるんですか」とよく聞かれますが、大丈夫です。
出席するかどうかはそれぞれの判断でよく、全員そろわなくても検認は行われます。
当日、遺言書を持っていって、出席した方の立ち会いのもとで封を開けて中身を記録する。
これで検認は終わりです。
実家はいつ売れるのか
順番はこうです。
検認 → 検認済証明書 → 相続登記(名義変更)→ 売却
売却そのものの流れは、相続した空き家を売る流れ|売る前から税金まで13の不安を整理でまとめて確認できます。
遺言書を使って名義を変えるには、検認が終わっていないといけません。名義が変わらないと売れません。亡くなった方の名義のままでは売主になれないからです。つまり、検認が売却のスタート地点です。
ただ、封がしてある遺言書だと、検認が終わるまでは中身も分かりません。
誰が実家をもらうことになっているのか、兄弟でどう分けろと書いてあるのか。
それが分からないまま待つのは、正直けっこうしんどいものです。
この段階でできることは限られていますが、相場だけは調べておくといいと思います。
いくらぐらいで売れる家なのか分かっているのと分かっていないのとでは、いざ話し合いになったときにまったく違います。
実家をどうするという話は、結局いくらの話になるからです。
相続した不動産の名義変更の具体的な流れは、こちらの記事でも詳しく解説しています。
遺言書と違う分け方をしていいのか

こういうご質問をよくいただきます。
「遺言書に、実家は長男に全部と書いてあった。
でも兄弟で話し合って半分ずつにしたい。
これってダメなんですか」。
結論、できます。
相続人全員が合意すれば、遺言書と違う分け方をしてもかまいません。
遺言で財産をもらう人には「もらわない」という選択ができるからです。
民法986条に、遺贈は放棄できると書いてあります。
もらう予定だった人も含めて全員が「こう分けよう」と合意したら、「一度もらうのをやめて、みんなで話し合って分けた」ということになり、それで問題ありません。
必ず聞かれるのが税金の話です。
「長男が一度もらってから兄弟にあげた形になって、贈与税がかかるんじゃないですか」。
これは国税庁がはっきり答えを出しています。
「相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です」「受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません」
贈与税はかかりません。実家は長男が引き継いでその代わり預金は弟さんに多めに、あるいは実家を売ってそのお金を兄弟で分ける、といったことができます。
こうした分け方は換価分割と呼ばれます。実際に売却まで進んだ事例を兄弟で相続した実家、どう分ける?換価分割で売却した名古屋市の事例でご紹介しています。
ただし、例外が3つあります。
一つ目は遺言執行者がいる場合です。
遺言書の中に「遺言執行者として〇〇を指定する」と書いてあることがあります。
この場合は相続人だけで勝手に決められません。
遺言執行者は亡くなった方の「この通りにしてね」という意思の側についている人で、相続人の味方ではないからです。
民法1012条には「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とあり、これに違反した行為は民法1013条により無効とされます。
まず遺言書に遺言執行者の名前が書かれていないか確認してください。
二つ目は、相続人以外の人がもらうと書いてある場合です。例えば「お世話になった〇〇さんに、この土地をあげる」と書いてあり、その〇〇さんが相続人でなければ、相続人だけで集まって決めてもその部分は動かせません。
三つ目は、遺言書で「分けるな」と書いてある場合です。
亡くなった方が「相続開始から〇年間は分割を禁止する」と書くことができ、最長5年です(民法908条)。
これがあると、その間は分けられません。
不公平な遺言書だったら、どうなるのか

「うちの遺言書、長男に全部って書いてあるんだけど」。それでも他の兄弟が何ももらえないわけではありません。「遺留分」というものがあります。遺言書に何と書いてあっても、最低これだけは受け取れます、という保証です。細かい割合や請求の仕方は深い話になるため別の機会に譲りますが、一つだけ知っておいてほしいのは、この請求はお金で来るということです。不動産そのものを取られるわけではなく、現金で払え、と言われます。財産が実家しかなければ、払う現金がありません。そうなると、結局その家を売ることになります。
以前、こういうご相談がありました。
50代の女性の方で、実家の名義がお母様と、亡くなった弟さんのお嫁さんの共有名義になっていました。
そのお嫁さんは家を出ていってしまっていて、お母様には少し認知症の兆候もある。
その方は、私のところに来られる1ヶ月前にすでに弁護士さんに頼んで公正証書遺言を作っておられました。
お母様の持分を、全部その方に相続させる、という内容です。
私が一つだけお聞きしたのは、「その遺言書を作るとき、弟さんのお嫁さんやお子さんと話し合いはされましたか」ということでした。
答えは「何もしていません」。
弁護士の先生からは「遺留分は、お子さんが請求してきたら、その時でいい」と言われたそうです。
ただ、その時が来たら、お金で払えと言われます。
でも、そこにあるのは家だけです。
私はその話を聞いて、そもそもこの段階で遺言書を作る必要があったのだろうかと思いました。
家族の話し合いが先ではなかったのか。
黙って一方的に、お母様の財産が全部自分にわたる遺言書を作った——それを知ったら、出ていったお嫁さんはお子さんのことを考えて、相当怒るだろうと思います。
一度こじれると、元に戻すのは本当に難しいものです。
誤解しないでいただきたいのは、これは弁護士さんが悪いという話ではありません。
専門家に相談すると、その専門家の得意分野での解決策が出てくる。
こういう場合こそ、不動産だけでなく家族関係も含めて相談できる窓口が必要だと感じます。実家の共有名義や遺言書のことで迷っていたら、早い段階でご相談ください。
それだけのことです。
財産が不動産しかないと、どうなるか

まずいい話からです。
遺言書があると、名義変更の手続きは楽になります。
遺言書がない場合、兄弟で話し合って分けることになり、そのときに要る書類は、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの全部の戸籍、相続人全員の戸籍、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書と、これだけあります。
遺言書があると、これがぐっと減ります。
亡くなった方の戸籍は亡くなったことが分かるものだけ、新しく名義人になる方の戸籍だけでよく、遺産分割協議書も印鑑証明書もいりません。
これは、家庭裁判所に出したから省略できる、という話ではありません。
家庭裁判所と法務局は別の役所なので書類が回ることはなく、理由は最高裁の判決にあります。
平成3年の判決で、「相続させる」と書かれた遺言があれば、その財産は「何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される」とされています。
つまり、亡くなったその瞬間にもう指定された方のものになっていて、他のご兄弟の同意もいりません。実際にどの戸籍まで必要かは、法務局や金融機関の窓口で確認してください。
だから相続人が何人いるかを確定する必要がなく、あの分厚い戸籍の束を集めずに済むのです。
ただし、ここが実務では一番大事なところです。
2019年7月から法律が変わりました(民法899条の2)。
遺言で自分の取り分を超えてもらった部分は、登記をしていないと第三者に「これは私のものです」と言えなくなりました。
昔は「遺言があれば登記しなくても大丈夫」だったのですが、今は違います。
だから、遺言があるならなるべく早く登記まで済ませてください。
これは本当に大事なポイントです。
共有名義は、一番避けたいやり方
財産が不動産しかないお家。
ここが一番大変です。
お金は分けられますが、家は分けられないからです。
預金1,000万円なら兄弟2人で500万円ずつと簡単に分けられますが、実家を半分に切るわけにはいきません。
では兄弟の共有名義にすればいいかというと、これが一番やってはいけないやり方です。
民法251条にこう書いてあります。
「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない」
括弧書きは令和3年の改正で加わったもので、外壁塗装のような軽微な変更は持分の過半数で決められるようになりました。ただし、不動産の売却は「著しい変更」にあたるとされており、依然として共有者全員の同意が必要です。兄弟3人の共有にした実家は、3人全員が「売る」と言わないと売れません。一人が「まだ思い出があるから」と言えば、それで止まります。
法務省もはっきり書いています。
「共有状態になった財産の管理・処分は、相続人同士で決めなければならず、不便なことが多くなります」「時間が経つと更に次の世代の相続が発生して、権利関係が複雑になってしまいます」
おじいさんの代から名義が変わっていなくて、相続人が十何人にも増えていて、もう誰と連絡を取ればいいのかも分からない——こうした状態を、私も何件も見てきました。
そうなると本当に売れません。
裁判所の統計にも意外な数字が出ています。
実際に分割が決まった遺産分割事件は7,903件(令和6年分)(分割をしない、を除いた終局件数のうち・全体の終局件数は15,379件)で、このうち約8割に不動産が入っています。
さらに約72%のケースで「誰かが取って、他の人にお金を払う」という代償分割の決め方になっています。
つまり現物では分けられなかった、ということです。
もう一つ。
この争いの遺産額は5,000万円以下が78.0%、1,000万円以下に限っても約35%を占めます。
「うちは大した財産ないから大丈夫」——そう思っている方ほど、実は気をつけたほうがいいのです。
ちなみに相続税がかかるのは全体の10.4%(令和6年分)で、9割の方は相続税と無縁です。
相続税がかからない場合でも、実際に売却するときは譲渡所得税の特例が関係してきます。相続空き家の3000万円控除|対象外にならない7条件チェックも参考にしてください。
でも、その9割の側で揉めています。
相続税がかかるかどうかを含めた実家の相続税評価については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
稲沢の路線価がまた上昇|実家の相続税はどうなる?【2026年最新】
だから私は思います。
財産が実家しかないお家こそ、遺言書はあった方がいい。
お金があれば調整できますが、家しかないと「この家をどうやって半分にするの」という話になり、そこで止まるからです。
ただし、さきほどの遺留分の話を思い出してください。
遺言書を作れば全部解決、ではありません。
黙って作ったら遺留分で揉めます。
紙より先に、家族の話です。
まず家族で話す、話がついたらそれを遺言書という形にして残す。
これが一番強いやり方です。
まとめ
- 封がしてあってハンコが押してある遺言書は、開けない。そのまま家庭裁判所へ。もう開けてしまった方も、遺言書が無効になったり相続人の資格を失ったりはしません。ただし隠す・捨てる・書き換えるのは絶対にやらないでください
- 検認は遺言書が有効か無効かを決める手続きではありません。「検認が終わったから安心」ではないのです
- 実家を売るなら、検認が終わって名義を変えてから。検認が売却のスタート地点です。稲沢の方は名古屋ではなく一宮支部です
- 遺言書があっても、相続人全員が合意すれば違う分け方ができます。贈与税もかかりません。ただし遺言執行者がいる場合は勝手に決められません
- 財産が実家しかないお家こそ、遺言書はあった方がいい。でも、黙って作ったら揉めます。紙より先に、家族の話です
遺言書は、親御さんが残されたものです。
基本はその意向に沿った形でやってあげるのがいいと思います。
ただ、ご兄弟で揉めないように。
そこだけは気をつけてください。
相続は家族の話が絡むので、私のような第三者が入ったところでどうにもならないことも多いのが正直なところです。
不動産のことで分からないことがあれば、あわせてご相談ください。
よくある質問
- Q. 封筒に封がしてなかったら、開けてもいいですか?
-
民法1004条3項の対象は「封印のある遺言書」なので、封がなければ開封自体は禁止されていません。ただし、封がなくても検認そのものは必要です。開けていいかどうかと、検認がいるかどうかは別の話とお考えください。
- Q. うちの親の遺言書が、検認が要るタイプかどうかはどう見分ければいいですか?
-
表紙に「遺言公正証書」と書かれた冊子なら公正証書遺言で検認不要、法務局の保管証や通知があれば法務局保管で検認不要です。仏壇や金庫から出てきた手書きの紙は、ほぼ検認が必要なタイプです。
- Q. 検認の日に、兄弟の一人が仕事で来られない場合はどうなりますか?
-
出席するかどうかは各相続人の判断で構いません。全員がそろわなくても検認手続きは行われます。
- Q. 遺言書と違う分け方をしたら、贈与税がかかりますか?
-
相続人全員の合意による分割であれば、国税庁の見解として贈与税は課されません。ただし遺言執行者がいる場合や、相続人以外が受け取る内容が含まれる場合は勝手に決められないので注意が必要です。
- Q. 遺言書に「長男に全部」と書いてあったら、他の兄弟は何ももらえないのですか?
-
「遺留分」という最低限の取り分の請求ができます。ただしこの請求は不動産そのものではなく現金で支払う形になるため、財産が不動産しかない場合はその不動産を売って支払いに充てることになるケースがあります。
- Q. 相続税がかからない家でも、遺言書を書いておいたほうがいいですか?
-
令和6年の統計では、遺産分割で揉めた事件のうち78.0%が遺産5,000万円以下です。相続税がかかるのは全体の10.4%にとどまる一方、揉め事の多くは相続税と無縁の家庭で起きています。財産が実家しかない家庭ほど、遺言書はあった方がよいと考えます。
※法律・税制に関する記載は、民法・裁判所公式サイト・国税庁の公表情報をもとにしたご案内です。
個別の事情によって扱いが変わる場合がありますので、実際の手続きにあたっては司法書士・税理士・弁護士等の専門家にもご確認ください。

